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すたれないタウリン

先日、オンラインで食事療法に関するセミナーを受けましたが、その中で「脂肪組織の炎症を抑制する成分としてタウリン(Taurine)が有効である」という解説があり、久々にタウリンという名前を聞いて懐かしく思い、またその後書店で偶然に「読んで効く タウリンのはなし」(成山堂 平成28年発行)という本を見つけて読み、この物質が今なお注目を集めていることに驚きました。

タウリンは栄養ドリンクに含まれていることで有名ですが、れっきとした薬です。私が近畿大学医学部第一内科学教室(現循環器内科)に入局した当時には高血圧の研究グループがあり、メインテーマとしてタウリンと高血圧について研究されていました。私はこの医局で大学院生になった時、最初に与えられたテーマは「ラット培養心筋細胞でのタウリンの心肥大抑制作用」というものでした。毎週のようにラットの心臓を取り出しては細胞を培養してタウリンを与えて実験していました。その結果、確かにタウリンは心臓細胞の肥大を抑制はするが、かなり大量に使わねばならず、また他のアミノ酸でも同様の効果があり、タウリンに特別な作用ではないという結論になりました。ただタウリンは心筋細胞内に単体で存在するアミノ酸としては最多であり、生体で肥大抑制作用の一つとして関与しているのではないかとうこじつけのような論旨で論文にしました。

その後、グループでのタウリンの研究は行われなくなりました。降圧剤としても色々研究されましたが作用が弱く、結局臨床に利用されるまでには至りませんでした。

タウリンとは下図のような構造の、分子内に硫黄(S)を持つ「含硫アミノ酸」の一つで、タンパク合成には利用されず、ほとんど単体で遊離して体内に存在します。食物では魚介類(特にカキイカ、タコ)に多く含まれています。体内では筋肉、肝臓、心臓、脳、網膜、血球細胞などに存在し、多彩な作用が報告されています。薬としてはタウリン散98%「大正」というものがあり、①うっ血性心不全、②高ビリルビン血症(閉塞性黄疸を除く)における肝機能の改善、③ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中用発作(MELAS)症候群における脳卒中用発作の抑制、というちょっと難しい病気に保険適応があります。あまりにも色々な効果が言われているので、医局の当時の教授から冗談半分に「タウリンは仁丹か?」とお叱りを受けたこともあったらしいです。

循環器科の分野では、「ネコではタウリンが欠乏すると心不全を起こす(ネコは自分でタウリンを合成できない)」「心筋症のイヌでは血中タウリンが減少している」という研究結果もあるそうです。また細胞内Caイオンが少ない時には流入を促進し、Caイオンが多い時には流入を抑制して細胞内Caイオンのバランスを正常に保つように働いているという報告もあり、多彩な作用も要するに体の現在の状態を保って安定させる作用(恒常性維持作用)がメインなのではないかと思われます。

上述の「読んで効く タウリンのはなし」で初めて知りましたが、タウリンについての国際学会が2年おきに開催されています。さらに2014年に日本で国際タウリン研究会という組織が設立され、論文数も年々増えているとのことです。

タウリン研究は廃れそうで廃れず、薬学、農学、栄養学、水産学、獣医学などでも脈々と続けられているます。今後は他の治療薬では効果が上がらない場合の奥の手として利用されるのか、あるいはまた新しい作用が発見されて注目を浴びる日が来るのかひそかに気にしています。

タウリン構造式

 

(この文章は「近畿大学甲寅会同窓会誌(旧第一内科同窓会会誌)令和3年」に投稿した文章をブログ用に加筆・修正したものです)

 

 

急変”前”徴候

210508

5月1日、「21世紀適々斎塾」という開業医の先生方が主宰する医師・医学生向けセミナ―をオンラインで受けました。

今回は特別セミナーで札幌医大総合診療学講座の佐藤健太先生の「慢性臓器障害の診かた、考え方」でした。

慢性臓器障害とは日本のCommon disease(ありふれた病気)で主要な6大臓器障害の総称」で、心臓・肺・肝臓・腎臓に年齢の影響が大きい脳と運動器障害を加えた6つを含みます。従来の臓器別の縦割りでなく、6つの臓器障害を横並びで見るという新しい視点を主張されました。

もちろんこのセミナーの主旨に共感するところは大きかったのですが、あえて今回の学びは「急変前徴候」とします。

心筋梗塞など突然起こる心血管系の病気や、肺炎などの感染症の症状や所見が完成する前に漠然とした体調変化が起こるということです。

私の経験でも、患者さんの状態が急に悪くなる前にむしろ元気が出てきたように見えたり、病気としては説明のつかない症状が現れることがありました。

多くは後から振り返って「あれは前兆だったのか?」と思うのですが、可能ならばその前兆の時に悪化しないように対処したい。

急変前徴候は以下の3つです。

①     痛みから起こる自律神経症状:吐き気、腹部違和感、便秘、軟便、脂汗、手足の冷感など

②     冬眠様行動:感染症の前に、体の活動が低下して寝たきりがちになる、デイサービス・食事拒否など

③     せん妄:わけのわからないことを言う。高活動型(興奮・妄想・徘徊など)と低活動型(眠りがち、反応が乏しくなる)がある。

これらが重い病気が起こる数時間から数日前にみられるということです。

こういった徴候があったら必ず重大な急変が起こるという訳ではないのが難しいところですが、「今までになかった変な症状」が出てきたら要注意です。