月別アーカイブ:2020年5月

市民健診(特定健康診査)を受けていただきたいこれだけの理由

みなさん、こんにちは。非常事態宣言やっとあけましたね。本当に重苦しかったです。まだまだコロナ第2波への警戒もありますし、気が抜けない毎日ですが、うまく距離感を保ちながら、日常を取り戻していきたいですね。

当院でもいわゆる市民健診である、特定健康診査の受付を始めております。今日は、特定健康診査がどれだけメタボリック症候群に抑止力があるのかをお話ししようと思います。

特定健康診査はメタボリック症候群の発生を抑制するために特化した健康診断です。

少し古い解析データですが、2008年厚労省が行った特定健康診査受診者2000万人から抽出したデータで、審査後指導(検査後のデータをみて生活指導などをうけることです)を受けた方はメタボリック症候群の発症が30%抑制されたという結果があります。
検査の結果を踏まえて、きっちりと治療すれば素晴らしい成果を上げていることがわかります。

特定健康診査対象疾患は、高血圧、脂質異常症(コレステロールの異常、中性脂肪の異常)、糖尿病、高尿酸血症、慢性腎障害です。

  • 最高血圧130mmHg 最低血圧85mmHg以上
  • 中性脂肪150mg/dL以上
  • 空腹時における血糖値110mg/dL以上
  • HDLコレステロール値40mg/dL以下

上に示すのがメタボリック症候群の基準になります。
それではそもそも、メタボリック症候群の何が悪いのでしょうか。
高血圧になる理由の多くは動脈硬化(動脈が固くなること)のため、強い力をかけないからだの隅々まで血液が流れなくなるために起こっています。高い血圧のためさらに血管が損傷したり、ポンプである心臓にも大きな負担がかかることになり、心臓の機能低下につながる可能性があります。
脂質異常は動脈硬化の原因となり、血管が詰まったり固くなったりして、血液の流れが悪くなったり血圧が上がったりします。
糖尿病は小さな動脈が損傷をうけ、血の流れが悪くなりからだの各部の障害を引き起こします。また免疫機能の異常をきたすことも知られており、感染症にかかりやすくなったり、ガンになりやすくなったりします。
高尿酸血症はとても痛い痛風などで知られていますが、それ以外にも狭心症や心筋梗塞、脳卒中を引き起こしやすいという報告があります。
慢性腎障害は比較的新しい概念で、糸球体ろ過量(どれだけ腎臓で老廃物を捨てることができるかということ GFR)と尿中タンパク量で規定されるもので、狭心症、心筋梗塞、脳卒中に影響するとされています。
いずれも三大疾病のうちの二つ、脳卒中と心筋梗塞をターゲットとしており、メタボリック症候群対策はこの二つの撲滅を目標に掲げています。
ちなみに三大疾病のもう一つはがんですが、こちらはがん検診での対応と考えられています。がん検診に関しましては、また機会を改めましてお話したいと思います。

ではそれぞれの疾患がどれくらい影響するか、予防効果はどれくらいのものか、脳卒中を例に数字を示しながらお話していきます。


脳卒中といいますが、脳の血管が詰まる脳梗塞と血管が破綻する脳出血、くも膜下出血に大別されます。突然意識を失って身体がうごかなくなるイメージが強いと思いますが、手足がしびれる、ろれつが回らない、物の見え方がおかしい、ふらふらするなどの症状から始まるものも多いので注意が必要です。特に脳梗塞の場合は、これまでの日本人は動脈硬化性の脳梗塞、つまり脳の血管が固くなったり詰まったりして血液が届かなくなるために起こるものが多かったのですが、心原性脳梗塞(心臓にできた血の塊が脳の血管に飛んで血管が詰まるために起こる脳梗塞、心房細動による血栓が多い)も多くなってきています。
脳卒中の発生頻度は2010年で10万人あたり166人でうち、脳梗塞が107人、脳出血が42人、くも膜下出血が7人です。2011年での概算発症者は29万人で、うち死亡者は12万人です。
脳卒中と関連深いのが、メタボリック症候群の高血圧、糖尿病、脂質異常症です。
まず血圧の関与ですが血圧が5下がると発症率は40%以上低下します。高齢者の場合血圧の低下は脳卒中の危険性を30%低下させますが、あまりの低血圧(最高血圧が100を切るくらいまで抑制しつづけること)は脳血管の血流を下げてしまう可能性もあるので慎重にならなければなりません。
糖尿病はヘモグロビンA1cの厳格すぎる低下を目指すと逆に脳卒中が増加する(低血糖発作頻発のため)ので、昨年のガイドラインでは年齢と全身状態にあった管理が推奨されています。女性の方、血圧の高い方、脂質異常症のある方、喫煙者の方はリスクが上がります。低血糖が発症に悪影響を与えるため、スルホニルウレア剤はできるだけ少量投与を目指されるようになってきています。
脂質異常症に関してはスタチン(LDLコレステロールを下げる薬)の大量投与で発症を30%抑制する報告があります。目安としては中性脂肪(TG)が150以下、LDLコレステロールが160以下が望ましいと考えます。LDLコレステロールが40下がると15%の発症率低下があります。食事療法だけでの完全は困難で、食事療法+薬剤療法の組み合わせで3年後の発症を35%抑制します。特に女性場合55歳以上では53%の抑制効果があります。
以上のように、メタボリック症候群をコントロールすることで大変大きな効果を示すことが示されていますので、そのきっかけになる特定健診は非常に便利で有意義なものであることがお分かりになると思います。しかし、特定健康診査の受診率は全国平均でも50%に満たないもので、特に都市部での受診率は低いものです。せっかくのチャンスを有効利用できていない方がたくさんいることが、医療者として大変気になるところです。
メタボリック症候群は、症状が出るまでは大変【しずかな】病気です。自覚症状はあまりありません。逆に何らかの症状が出てくるときは、ずいぶん病気が進んだ状態になって、コントロールに難渋することが多いです。早めにチェック、早めのケアでより良い人生を送っていただきたいと思います。

免疫力を上げるには 最終回 フレイルとの戦い

全く同じテーマで、延々書きつづっていますが、今回最終回です。

大阪府下も新規のコロナウイルス感染者がぐんと減って、先が見えてきた感じはありますが、緩和による第2波への懸念も消えないため
当院でもまだまだ非常事体制でコロナウイルス対策に取り組んでいきます。

さて、長期の自粛のため屋内に引きこもりがちになっている方も多いように思います。当院への患者さんの足取りも重いものとなっており、本当に息が詰まるような日々を肌で感じさせられています。

ようやく、非常事態宣言が解除されたといってもコロナ危機が去ったわけではありませんので、こんな時には屋外に出かけるのが本当に怖いですが、そのために運動不足になることが大きな問題になってきています。
表題のフレイルですが、脆弱、虚弱という意味で、まさに、いま多くの方が直面している運動不足による心身の虚弱化を表しています。

筋力低下(ロコモティブ症候群、サルコペニアなどという言葉をお聞きになったことがあると思います)が起こることで、活動性が低下し、基礎代謝が低くなり、さらに食事もとれなくなり、また筋力が低下していくという悪循環が形成されフレイルの状態が進んでいくと考えられています。

ひきこもりを余儀なくされ、感染の恐怖のため心身共に疲弊し、フレイルの良くないサイクルの中に引き込まれていき、どんどん食事もとりづらくなってくると、腸管免疫も低下します。
このようなコロナ禍の事態を全く予期していなかったのですが、わたくしは以前より健康生活を送るための筋肉と骨の重要さ、日常の生活の質(ADL)の低下のため免疫力の低下が生じることなどを講演などでお話してまいりました。


当院ではクリニカルモットーとして【いつまでもじぶんのあしであるくために】を掲げていますが、皆さんにフレイルに陥らずに快適な生活を送っていただきたいという強い思いが込められています。筋力低下は最終的に全身機能が低下して寝たきりの状態に至ります。長期臥床状態になると免疫力低下のため感染症によって命が奪われることも多いのです。
厚労省も提案していますが、日ごろのからだの動きプラス10分の運動が健康な毎日につながります。勇気をもって外に出て(もちろんしっかり感染対策をしてください)、10分間でよいので運動をしましょう。
筋肉を使い、骨を強化し、体幹が丈夫になることで日常生活の活動状態(ADL)が向上します。よいADLを保つことがフレイルを防止し、免疫力の低下を極力抑えることにつながるため、意識して運動していただく必要があります。
とにかく運動をしましょう。少しでもいいから身体を動かしてください。そしてしっかり食事をとってください。
コロナウイルスの治療法が未確立である今は、身の回りでできることを懸命にこなしていくことが大切だと考えます。
未曽有の災害をもたらすコロナウイルスに負けない暮らしを、できるところから始めましょう。

免疫を上げるには 第二回 漢方薬の利用

こんにちは。第一回目の免疫力増強のお話は、善玉菌の活用による腸活のお話でした。今回は、私の得意とする漢方治療のお話をさせていただこうと思います。


漢方薬が活躍していた古代中国の世界では、人はいとも簡単に感染症で命を落としていました。洋の東西を問わず、人類は長い間感染症に翻弄され続けてきました。ペニシリンなどの抗生物質の登場や、種痘などの予防接種の登場は人間の生存率を飛躍的に向上させたことは歴史が示しています。

私たちが今直面している新型コロナウイルスは、これまで人類が出会ったことのない未知のウイルスとの遭遇であったため、まさに昔の人間が直面した感染症の恐怖を味わっていることになりますね。

微生物を殺す有効な薬剤がない場合は、昔も今も症状を軽くする治療(対症療法)が中心となりますので、治るかどうかはどうしても本人の免疫の力や体力に頼らざるを得ません。
古代中国の医療はまさに感染症との戦いでした。

感染症という概念もわからず外から入ってきた邪悪なものをいかに追い払うことに血道をあげてきたのです。これを現代風に解釈すると、体内に入ってきた感染源に免疫力を高めて対抗するということにほかならず、そういう効能の薬剤がたくさん準備されています。

実際に現代の診療でもインフルエンザの治療の何番目かには麻黄湯という、解表(入ってきた外敵を打ち払う)薬が選択されますし、皆さんの良く知っている葛根湯も適切な使用を行えば素晴らしい効果を発揮する解表薬です。このような薬剤は、日本のそのままではないですが、今回のコロナウイルスの蔓延の際にも中国で実際に使用されています(現代の薬と併用しています)。実際の使用方法などは【COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方】として 金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子先生が日本感染症学会のホームページにいち早く寄稿なさっています。
現行の西洋薬にはこのような効能を持つものはなく、私自身がこれまでインフルエンザなどの治療に使用してきた実感からすると、うまく西洋薬と組み合わせることで対応できる幅も増えるのではと感じています。
また、急な外敵との遭遇戦の免疫力強化ではなく、日ごろの免疫力強化としては補中益気湯などに効果があるかもしれません。こちらの薬剤も、インフルエンザの発症率低下や症状軽減などの効果が報告されているものです。

漢方薬には私たちが忘れ去った知恵や工夫がたくさん詰まっています。そのおかげで、今の西洋医療では手のとどかない症状や体調不良を治すことができることもしばしば経験します。
いまはどんな方法でもいいのでコロナウイルスと無関係でありたいと皆が願っているわけですので、あらゆる方法を講じて、未曽有のコロナ禍を乗り切っていきたいものです。

免疫力を上げるには~第一回 善玉菌の活用

コロナ感染症一辺倒の毎日になっておりますが、いかがお過ごしでしょうか。コロナ自粛がありストレスも大いに溜まってきているところと思います。

また、ウイルスに対する有効な薬剤やワクチンの開発もまだまだかかりそうな状況で、個人に備わっている免疫力が唯一の頼りである日々はいまだしばらく続きそうです。

 

人体に備わっている免疫を担当する細胞たちの約60%は実は腸の粘膜内に住んでいます。この細胞たちは日々体内に取り込まれてくる異物と腸内で接触して切磋琢磨しており、腸内環境と免疫機能は密接にかかわりあっていることが近年明らかになってきました。
腸内環境で肝心なことは、
1)腸粘膜のコンディション
2)腸内細菌叢の状態
です。
1) は食事をきっちりとることで整えられていきます。病気などでしばらく食事がとれない時期が続くとあっという間に腸管粘膜がうすくなり衰えてしまうことが知られています。それは免疫細胞のすみかがなくなることを意味しており、60%の免疫細胞のすみかを失ったからだは、免疫機能が極端に低下してしまいます。それだけ、口から食事をとることは大事であり、内容はともあれ、できるだけバランスの良い食事をきちんととることが免疫維持に重要な意味をもってきます。
食事は栄養面だけではなく免疫にも関係しているので、健康の基本であることが分かっていただけるとおもいます。

元気な善玉菌のイラスト
2) は、最近よくテレビなどでも取り上げられる【腸活】のトピックです。人間の腸の中には多種多様な細菌が住んでおり(腸内細菌叢といいます)、そのバランスが保たれていることが免疫細胞の働きに重要な役割を果たしています。

腸内細菌叢のバランスを保つのに非常に大きな役割を果たすのが、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌と呼ばれている菌類で、乳製品の発酵食品に入っているものです。皆さんになじみの深いものとしてはヨーグルトであったり、またヤクルトのような乳酸飲料がそれにあたります。これらの善玉菌が産生する乳酸や酢酸が腸内環境を弱酸性に保つことでいわゆる悪玉菌を減らし腸内細菌叢の適切なバランスを保ちます。

善玉菌投与の効果は科学的にも実証されており、例えばインフルエンザにかかりにくくなったり、その症状の軽快につながる、または、ノロウイルスによる腸炎の症状を軽くしたりするという結果が報告されています。

善玉菌を摂取するだけでなく、善玉菌の生育環境を整える手法があります。善玉菌をより効果的に活躍させるためには、食物繊維をたくさんとること(野菜をたくさん食べましょう)と、摂取する糖分を善玉菌のごはんであるオリゴ糖に変えてやることがよいとされています。

善玉菌+食物繊維+オリゴ糖はよりよい腸内環境の方程式です。その答えは免疫強化として現れてきます。明日からでもできる免疫強化法ですのでぜひ取り組んでみてください。興味を持たれた方は、外来でご説明いたしますのでお声掛けください。

皆さんも、腸内環境を整えて、免疫力の強化を行いましょう。ちなみに、コロナ自粛でストレスをためるのは免疫にマイナスに働きますので、上手にストレスをかわす方法も考えてくださいね。

第二回 漢方薬の効用へとつづきます。